私は以前からkindle Unlimitedという月額1000円ほどで一部読み放題のサービスを使用している。
まぁ、”一部”であって、全部読み放題ではない。基本的には雑誌か、コミックの最初の1~2巻目、100円前後の素人書籍あたりくらいしか対象になっていないのだが、ところどころバケモンみたいなものもある。
そんなkindle Unlimitedはある程度読みたい本が尽きたら解約して、しばらくしたら再契約するって使い方をしていたんだけれど、最近は結構メジャーなSF本がUnlimited枠にあって、なかなか解約できないでいる。
で、そのSF本をkindle Unlimitedに多く掲載している出版社が、有限会社グーテンベル21というところだ。

表紙は青空出版を思い浮かべるようなシンプルなもので、著作権切れか権利落ちを公開している…ようにも見えるんだけど、ハイラインとか割と最近の著者いるのでどうなっているのかな?と調べてみたら、結構グレーだった。
何がグレーか
解説してくれているサイトがあった。
私も完全に理解できたわけではないのだが、日本における著作権法は1899年(明治32年)に制定され、制定後の1971年(昭和46年)に一回大きく改定されて今日まで使われている。前者を旧著作権法、後者を現著作権法という。
で、このこの現著作権法には、現著作権法ができるよりも前に発行されたものには旧著作権法が適用されるよ、という例外規定の第八条がある。まぁ、法は基本的に遡及適用しないから、当然と言えば当然と言える条項である。
で、問題なのは旧著作権法には第七条として、原書が出てから10年以内に翻訳版を出さなかった場合、翻訳権が無くなるという規定がある。
まず翻訳権?ってなんだというと、これは作者が自分の作品の翻訳物についても、作品そのものと同様に権利が与えられるよ。より正確に言うと翻訳しても良いか悪いかを決めることができて、その過程で権利を折衷できるということである。
うまく説明できないが、例えば私が書いた日本語版の小説があったとして、それを他人が勝手に翻訳して出版するのは違法であるとしたものである。私の小説だとしても原著の日本語版と異なる言語の著書は別の物なので、別々に著作権が生じるわけだが、かといって勝手に翻訳版を作って翻訳者が完全に著作権を握るというのはおかしい。そこで、翻訳に禁止を掛けられる、あるいはその権利を利用して翻訳版の著作権案分の交渉をできるようにしたのが翻訳権…というわけのようだ。
で、旧著作権法第七条では、10年以内に翻訳版が出なければ自由に翻訳してもいいよ、つまり原著の著者の許諾無しに翻訳版を作成し、またその著作権はそれぞれの訳版の翻訳者にあるよ・・・と、いうことらしい。
ここまでは旧知のことであったのだが、グレーなのはここからだ。
発表から15年目である出版社が翻訳権を契約し、翻訳版を独占出版した小説があるとする。
これまでは翻訳権が切れた後でも、翻訳されたものが出た以上、他社が翻訳版を出版するのは違法・・・と解釈されてきた。
ところが、グーテンベルグ21では、「いやいや杓子定規に考えると10年以内に翻訳版が出なかった著書は、翻訳権が消滅しているのだから、誰が翻訳して売っても自由ってことだよね!そのあと誰かが翻訳版を出版しているかは別の話だよね。」と、解釈したわけである。
こうすると怒るのは翻訳権を買って翻訳版を出していた出版社である。一社だけ勝手な解釈をして契約料を払わずに出版している。けしからんと言うわけだ。
応援すべきか、排斥すべきか
これが、ちょっと難しい。
そもそも調べようと思ったきかっけがAmazonのレビューで、そのレビューを要約すると「法律を悪用して粗造量産している」という旨だった。
そのほかも調べてみると・・・原文だけじゃなく一般の著作権がある解説まで無許諾で転載してしまって、なんかエライいいわけっぽいことを連ねているケースがあった。
素直に「ここは著作権があるのに気づかず、間違えて掲載しました。すみません。」と言えばいいものを、下手な言い訳をしているので印象が悪い。グレーなことをやってるなら、少しオーバーなくらいホワイトなアクションをするべきだろうと思うんだが・・・。
とはいえ、まず利用者としては安く読めるのはまぁ歓迎だ。
問題は書籍へ払うお金が、将来の書籍の原資となっているわけだから、不当に安く本を手に入れていれば、そのうちだれも書かなくなってしまうことにある。
とはいえ・・・じゃあ仮にグーテンベルク21が不当に安価な版を発行しているとして、それを発行しなかったら著者にどのくらいお金がいったのかというと、なかなか微妙なところだ。
グーテンベルク21の扱ってる書籍は電子版が無い物が多い。たぶん、探せば電子版がもとからあったやつもあるとは思うんだが・・・
例えば「宇宙船ビーグル号 A.E.ヴァン ヴォクト著(1950年発表)」とかは、電子版を出しているのはグーデンベルク21だけである。
紙の本としては創元SF文庫が1964年に出版してはいるのだが、絶版になっているようで、新品は手に入らない。※2017年に新訳版が発刊された。
数千円を出して中古本を手に入れることはできるのだが・・・果たしてそれに払ったお金って将来の書籍の原資となる・・・のか?
SF小説にはこういう、発行から10数年後にどっかが翻訳版を出したんだけど、それっきりでノーメンテというのが一杯ある。いろんな商売上の制約や戦略があるんだろうが、なんというか殿様商売感があって腹立たしいのも正直なところである。
そう考えると、グーテンベルク21がそこまで公共の利益に反したことをしているとも言い難い気がする。そして、一応は法律の条文に反したことはしていなくて、裁判をしたら行間的に違法と判断される可能性もあるけれど、まだ違反だと決まってはいない。
・・・と、言うことで応援しとこう側にちょっと傾いている。