風邪をひいている最中に読みたくなって、寝込んでいる合間に読んだ。
グレッグイーガンのディアスポラ
で、ディアスポラには正式なシリーズではないんだけど前編みたいのがある。順列都市。そっちから読んだ・・・
この2冊は典型的なSF作品なので、未読の人にはぜひ読んで欲しい。
が、私もいい加減分かってきたが・・・「この本面白かったよ」って言って読むのは1%以下の人。
なのでまぁここからネタバレしながら書くので、読みたい人はそっと閉じて欲しい。
順列都市
まず、順列都市なんだけど、これは近未来・・・2025年の現代よりちょっとだけ技術が進んでいて、コンピュータ技術が進歩して「コピー」といってコンピュータ上で生きる人が出始めた時代の物語。
「コピー」というのは「人間の脳」をスキャンしてデータ化して、コンピュータ上で脳の動きをシミュレートすることで、コンピュータ上にコピー元と同じ人格の思考が生じるというものを「人間の一種」とみなして扱う表現。
脳みそ以外にも、周辺の環境だとかを簡易的にシミュレーションして、シミュレーション上の脳にインプットするので、脳みそからすると生身で生きているときと同じように錯覚する。
所謂、マトリックスの世界の生身の体が無いバージョンと言ったらよいか。
このコピー処理をすれば、”主観的には”死ななくて良くなる。とされている。
でも、物理的な体はいつか死ぬ。自分と同じ記憶・思考力を持った「コピー」を作っても、それは生身の自分の延長なのか?単に出来のいい遺影みたいなものじゃないのか?
という考えが多い。という感じの近未来が背景。
この順列都市には二人の主人公が出てくるんだけど、片方の主人公がとあることから、新発見をする。
シミュレーション上でコンピュータを作って、そのコンピュータでシミュレーションをして、そのシミュレーション上で「コピー」を実行すると・・・コピーの主観的には現実のコンピュータが止まっているか動いているかに関係なく、時間が流れているように感じる・・・という現象である。
これを利用すれば、コンピュータの電力が尽きることや、宇宙が終わってしまうことを心配せずに永遠に生きられる。と考える。
ただし、この現象はシミュレーション対象に対して「臨界点」というのを超えるくらい、実際のコンピュータ上でシミュレーションを続けないと発生しない。一時的とはいえ、地球のスパコンを全部使うくらいの莫大な計算能力を必要とするので、大富豪とかから資金を集める必要があった。
このバカバカしい取り組みに巻き込まれていくもう一人の主人公。
母親が病気で余命が短いとわかり、死なないように「コピー」を作らせたいが、お金がない。借金して「コピー」を作らせたいと母親に頼むんだけど、そんなデジタル遺影みたいなのに借金してまで金を突っ込むなと拒否されてしまう。
しかし主人公は「コピー」が単なるデジタル遺影とは思えず、なんとかコピーを作らせたい。そこで先ほどの主人公から高額な報酬を提示されて話に巻き込まれていく・・・
シミュレーション上でシミュレーションすれば永遠に動くというバカバカしい話なんて誰も信じないので、すんなりとはいかず、いろいろと画策して物語は進み、最終的にシミュレーション上の宇宙に旅立つ。
ディスポアラ
ディスポアラは生身の人間がほとんど居なくなって、殆どの人間がコンピュータ上で生きている世界での話。それでも生身の人間も少し残っていて、体はロボットの人たち、体も頭もシミュレーションの人たちの3種類で生きている。ただ、お互い仲が悪くて疎遠になっている。
「体はロボット」と「体もシミュレーション」の種族は互換性がある(体がロボットの人が、体を捨ててシミュレーションの世界に移ったり、シミュレーションの世界の住人がロボットに入ったりはできる)ので、まだそれなり仲は良いんだけど、完璧に人間の人とは険悪になっている。
なんせ一方通行なので。(人間から体を捨ててシミュレーションに移ることはできる。逆はできない。)
そんな中、ある日ガンマ線バーストという宇宙災害みたいなのが起こる。
これは重たい星同士が激突して、その時に発生したエネルギーが強力なガンマ線として放出される現象のこと。これが起こると地球上の生物が放射線を浴びる上に、オゾン層が分解されて強力な紫外線が地表に届くようになる。地表は生物が火傷で死んでしまうような状態になるし、気候にも大きな影響が出る。
この世界ではシミュレーション上の人たちは宇宙に広く広がっている。体が無いと生命時装置が要らないし、すごく小さく作れるので宇宙船が作りやすいからだ。距離も自分自身は単なるデータだから、通信として移動すれば光の速度で動けるというのもある。
それだけ宇宙開発が進んでいたから、本当は激突しそうな星の組み合わせは先に分かっていた。しかし、説明がつかない現象で星が激突してガンマ線バーストが生じた。
これについて主人公が調べているうちに、異次元があることがわかって、ある星に異次元から来た宇宙人がガンマ線バーストについて警告を残していたことを発見する。
主人公はその宇宙人の痕跡をたどって異次元に行くんだけれど、その次元には宇宙人は居なくて、さらに別の異次元に向かったことを知る。そうして異次元から異次元にどんどん進んでいくんだけれど、次元間の通信は不安定なので、あまり異次元にいると元の世界に戻れなくなってしまう。
それでも進んでいくうちに、ある日ついに通信が切れて戻れなくなってしまう。しかし、進み続ける。
そのうち宇宙人が残したコンピュータをついに見つける。そのコンピュータ自体は死んでいて、中身の分析もできないけれど、宇宙人も自分たちと同じように生身を捨ててシミュレーション上で生きる生物と知る。
そしてそのコンピュータから次の異次元に移った痕跡があるので、それを辿っていくと、またコンピュータが捨てられていて…というのを繰り返していく。
そしてあるところで、次の次元に移った痕跡が無く、単に捨てられたコンピュータがあるだけの異次元にたどり着く。つまり、宇宙人はそこで自分たちを終了したのだった。
主人公たちは「きっと彼らは彼らの演じられる可能性をやりきったのだろう」と。シミュレーション上の人間は時間が無限にあるし、殆どのものはシミュレーション上で好きに生成できるから、何でもできる。やることは無限にある気もするけど・・・でも、無限の時間の中でついにやれることを全部やって、「満足したからもうシャットダウンしよう。」と思ったのだろうと考えた。
そして、自分たちももうやりきったかな・・と自らシャットダウンすることを選ぶ。
しかし、一人だけはまた数学を1から考えよう・・・と一人残ることを決意してそれに取り組んでいくところで物語は終わる。
うまく説明できないなー
うーん、この宇宙人に会って話を聞きたいと必死に追いかけてきたわけ。なんでガンマ線バーストがわかったのかとか教えてほしいし、自分達より優秀な種族に敬意があったから。
過去を切り離してまで追ってきたのに、最後結局会えなかった。でも、ガンマ線バーストがなぜわかったのかはその道中の無限のような時間の中で自分たちで見つけちゃった。
だから結局、やりたいことはもう宇宙人の跡を追うってことだけになっていて、それが達成されたわけ。そんな達成感の中、シャットダウン・・・ある意味自殺みたいなもんだけど、それを選んで物語が終わるっていうのが何とも言えない良さなのである。